One Boiling Point「浮分離」

アートワーク:onodai, One Boiling Point


波を切って粒子化する
融解と、分離


この2点で音は要素される

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・消失する風景

 1/17、音楽ファイルが消える。ほぼ完成済みのEPのデータ、音楽作成に必要なサンプルパック等のファイルが入っている外付けのSSDが認識しなくなる。バックアップはとっていない。怠惰と不運の引き起こす出来事に呆然とする。

 1/18、復旧業者に依頼。復元不可能な旨の連絡を受ける。この段階で2つの選択肢を迫られる。今回はいったん作成を取りやめリリースの延期か、今から再作成を行い本来リリース予定日の3月に間に合わせるか。

 1/19、EP作成再開。消えたEPデータを元に再作成を行う。といってもこの段階で前のEPを聞きなおすことはあまりせず記憶の中で進めていくようにした。その方がより現在の感覚が詰められる気がしたからだ。また自分の中でリリース日を3月に決めて、退路を断つことにした。もう来た道は戻らない。

 2/3、シングルカットをした"覚えていない"が完成。文字通り前作のデータは覚えていない状態だが、忘却は次に進む後押しにもなると知った。曲は確実に消える前より良い状態になっていた。この調子でEPの曲を作成しつつ、他の作業(MVや、safmusic,suLとの共作曲"August in the water"関連のこと)も同時に進めていく。目が回っている状態だがとにかく進める。

 2/20、EP"浮分離"の再作成が完了する。

  この間様々な人に支えて頂いた。本当にありがとうございます。




・浮分離とは

 "ウキブンリ"と読む。(こんな言葉はないのでどう読んでも良い)

 分離する音、分離していく私の人格、分離させられる世界、それらが細かくなって浮いて消えていく。儚さ自体もいずれ浸透して空気に融解していく。音楽は的確にそれらを捉えて"可聴化"する。

 エフェクトで私はトレモロを多用する。分離していく様が音楽的であると信じているからだ。このEPはそういった地盤があり、"浮分離"となった。



・それぞれの曲に関して

1. re start

 EPを再作成したときに一曲目のタイトルはこれに決定された。前述した、作成する状況が大きな理由である。そして、我々はいつも始まりを経験している。

 不穏さと爽快さをできる限り肉薄させるように意識した。女性の声は小津安二郎の"麦秋"という映画をサンプリングしている。とても力強い台詞回しと声色、その中にあるもの悲しさに感動をして、曲に使用をした。


2. 針を刻む(feat. Tokiro)

 ビートが先にできていて、それ自体は気に入っていたのだが声を乗せることが難しくどうしようか悩んでいた。Soundcloudで知り合ったTokiro君に聞いてもらったところ、気に入ってくれたのでそのまま客演として参加をしてもらい、作成した。

 曲を作成するうえでボーカルとビートのバランスにとても注力した。声が前に出すぎず、かといってビートが大きすぎない(特にキックが苦労した)、互いに曲の両輪として作用できるようにミックスをした。Tokiroくんのボーカル(一部、最後のところは私のボーカル)の出来も気に入って、結果的にビートとボーカルの絡み方がより曲を加速させる装置になった。


3. 霧A

 エレクトロサウンドとシューゲーザーを両立させたいと思い作成をした。どう聞いても4拍子だが、最初は3拍子の曲として作成した。1:40秒辺りからの展開はその名残のため若干違和感のある構成になっている。そして耳を余すことなく使うように、リバーブ、ディレイ等の空間系を深くかけた。

 歌詞で出てくる、"好きだったあの場所はなんか病院になった"が結構気に入っている。


4. doublethink

 とてもシンプルな曲となっていて、全部で10トラックほどしかない。シンプルなギターロックを作成したく、その勢いのまま駆け抜けた。終盤のギターソロは一回で撮った(もう弾くことはできない)。後半左から聞こえる音もギターで作成をした。アタック音を消すように処理をして不思議な音にした。結果的にシンプルなギターロックではないが、考えてみるとそういったものは私がやる必要もないのでこれでいい。

 タイトルはジョージ・オーウェルの"1984年"に出てくる言葉、思想より。


5. 覚えていない

 今回のリード曲。私の音楽の作成方法としていままではトラックが全部できてから歌詞を作るようにしていたが、この曲は初めて歌詞から曲を作り始めた。ピアノをメインにしてシンプルな構成を主軸にしつつ、ノイズなどの様々な音を足してアンバランスな面白さを目指した。2:26からの、ギターの入ってくる展開ができたタイミングで、この曲は形作られたと思った。

 確かにしたことを覚えていない。忘れてしまうことは沢山ある。先週食べたご飯の味を忘れ、数ヶ月間作っていた音楽データは消え、去年思っていた目標は無いものとして生きている。でも今も何かを思って生きている。それが諦めや、怠慢ではなくて、忘我であると思えるようになってきた。少しずつ思考が前を向いていると感じる。


6. 砂岸

 "覚えていない"で終わるのは少し違うと思い、この曲を最後に入れた。アンビエントよりは肉体的で、ポップさは削られ、実験的と呼ぶには丸みがある、形容がしにくい浮いた曲になった。




・最後に

 私の作る音楽は作品とは思わない。作品というよりは今の状態を曲にしているといった方が正しい気がする。ある意味で日記を付けるような、そんな感覚だ。そして日記を付けるペンのインクとして、音楽を私は選択した。




 EP聞いてくれた方、この文章をここまで読んでくれた方、本当にありがとう。




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